庭に苔を植栽するにあたって

グランドカバー(庭園)において苔を選択するコトは落ち着きや高級感を与えてくれます。しかしながら植栽する環境に合っていない種類の苔を施工するケースを散見するように思います。

苔は日本において、凡そ1,800種類自生していると言われます。これは全種類の凡そ10%に相当し、南北に長く高低差が大きい日本の多様な環境が生んだ結果と言えます。

苔にはそれぞれ性格があり、最適な湿度と日射量が決まっています。

(多くの人がイメージする様に日陰で多湿な場所を好む苔の種類は多いです)

施工環境に合った苔を選択する、又は施工環境を苔が生育できる環境に整えることにより失敗しない苔の庭をつくることができます。

基本は、空気をあまり動かさないコトと陰をつくるコトです。苔は根が無い原始的な植物で水分は直接細胞に取り込み生きています。水分がなくなると葉を閉じ、見かけ上の生命活動を停止する”休眠”という状態になります。休眠状態で暫くは我慢できますが恒常的に水分を保持しにくい環境だとうまく育ちません。

その為に、水分を飛ばさない環境つくりとして塀や樹木などで風よけをつくることと、木陰をつくることによって直射日光を避ける環境が有効となります。多くの種類の苔は、進化の過程で木洩れ日の光を効率的に吸収できるように葉緑素をデザインしてきました。

また、地上から風の影響を受けない範囲を”境界層”と呼びます。境界層が厚いほど大型の苔が自生し薄いほど小型の苔が自生します。写真の様な森の深い環境などでは大型の苔を見るコトができます。

<ムツデチョウチンゴケ・イワダレゴケ・ミヤマスギバゴケなど>

<フジノマンネングサ>

<セイタカスギゴケ>

では、湿度と日射環境を整えれば上の様な苔を自宅の庭で生育させることができるかといえば100%不可能とは言いませんが現実的には相当難しいと思います。人工的に森の深い環境を再現するのは湿度・日射以外の要素が影響していると考えます(例えば標高:上記写真は標高1500m以上)

 

話を庭園の苔に戻します。庭園用苔の代表として真っ先にイメージされるのはスギゴケだと思います。

ここでのスギゴケは”オオスギゴケとウマスギゴケ”の2種類を指します。スギゴケの性格としては、「日射:好き 湿度:多め」となります。例えば関東においては日射については良いですが、湿度が足りません。(局所的には適応する場所はあります)そこで風を止める施策と定期的な潅水を行う必要があります。生育がうまくいっていない庭を見ると、この両方を対策していないコトがよくあります。

それ以外にスギゴケは大型で成長が著しい種類となります。自然の中に生えているスギゴケもそうですがある程度の大きさになると倒れて枯れます。そこから新しい芽が生えてきて緑の絨毯をつくります。

庭園においては緑を維持する必要があるので定期的に刈り込みを行う必要があります。また、スギゴケは仮根部分から新しい芽を出します。山取りや畑栽培で漉き取った時点で仮根を痛めてしまっている苔は最初は良いのですが、新しい芽を出しにくい場合があります。スギゴケを関東のような環境の中で上手く育てるには手間暇が掛かると思います。それゆえにキレイに維持管理できている場所は職人の腕がある場所であると言えます。

庭のデザイン上、風よけや日陰をつくることが難しい場合もあると思います。そういった場合は日射に強く乾燥にも強い種類(スナゴケ・コマノヒツジゴケなど)を選択するのが良いと思います。

<風よけや日陰をつくることが難しい例。スナゴケとハイゴケの混合を使用>

日よけが難しい場合は下草で陰をつくってあげるという手や岩陰の日が当たらない場所に植栽する方法もあります。

また、茶庭の様な苔にとって良い環境では植栽できる苔の種類も増えます。

(コツボゴケ、ヒツジゴケ、カモジゴケ、ハイゴケ、フデゴケ、ツヤゴケなど)

最後に栽培した苔と山取りの苔の違いについて考えたいと思います。他の植物においても言えることですが”順化”が大切だと考えます。栽培苔はある程度厳しい環境で育てているので順化が行われていると考えてよいです。しかし、山取りの苔は環境の良い場所に自生しているので環境の変化に敏感です。同じ種類の苔でもどういった場所で育ったかによって施工後の挙動が顕著に変わってきます。

苔は難しいと思われる理由を大まかにまとめてみましたが、大半は知識があまりない人がなんとなく施工した結果なのだと思います。確かにデリケートで今回記載していない点で気を付けないといけないポイントがあったりもしますが、環境に適応してしまえば苔はとても強い植物です。

環境つくりから苔の選定及び手配までアドバイスさせて頂きますので、苔の植栽で悩んでいる方がいらっしゃいましたらご相談頂ければ幸いです。