苔の自生地考察

苔の庭を計画する際に参考となるのは、自生する環境をよく観察することであると思います。

庭に苔を落とし込む為の観察という観点において重要なのは日射・方角・どの様な基盤に生えているか・湿度・標高などになります。極論を言えば苔庭を計画する時、自生地と同様の環境を用意してあげれば上手く生育します。しかしながら、施工環境にはどうしても制限があるので出来るだけ環境を整えたうえで適材適所の苔を配置していくことが重要となってきます。

また苔は肥料や剪定など他の植物には必要な定期的管理はほぼありません。

全ては苔の性格をどれだけ理解しているかによります。

 

それでは代表的な苔の自生地の環境を見ながら性格を把握していこうと思います。

先ずは、乾燥の強い関東では比較的使い勝手の良い”スナゴケ”です。スナゴケと一括りに言ってもエゾスナゴケ・コバノスナゴケ・ナガエノスナゴケなど種類が分かれていますがこの3種は性格が似ているのでスナゴケで括ってしまって良いと思います。

スナゴケ(砂苔)という名前の通り砂地や岩地など水抜け・日当たりが良好な場所を好んで自生しています。都会でも日陰気味のアスファルトなどで見ることができます。スナゴケを植栽する際、最も重要な点は水捌けを良くすることです。水捌けが悪く、長い時間水に触れていると次第に黒ずんで状態が悪くなります。日当りに関してはある程度の日陰でも許容します。

日当りが良い環境では黄緑、反日蔭では深緑と色味が変わってきます。日陰ではより日射を吸収しようとする為、葉緑素量が変化するのではないかと思います。

 

続いて苔玉などでも使用されるハイゴケの性格について把握したいと思います。

スナゴケ程、日当りに強い訳ではないですがある程度の直射日光には耐えられる種類になります。

ハイゴケは湿度が安定した土壌を好みます。開けた場所より、木陰などで良く見られます。

雑草の間で繁茂していることもよくあります。雑草が日陰をつくり、尚且つ風の影響を和らげてくれる効果が有るためだと推測されます。面で広がるので、大きな群落地を作りやすい性格です。

スナゴケより水持ちの良い土壌を用意すると良いです。ある程度の日射は大丈夫ですがスナゴケの様な感覚では使うことはできません。スナゴケと同様に日当りが良いと黄緑、日陰だと深緑に変化します

面で広がる性格でハイゴケに似た苔でコツボゴケがありますが、コツボゴケは乾燥を嫌うのでほぼ日陰な環境を好みます。茶庭の様な日陰の庭でしたら適応しますが他では使いづらい性格かもしれません。

コツボゴケの葉の厚さは細胞1列分しかなくとても薄いです。乾燥に弱いのはこの様な特徴に依ります。

乾燥には弱いですが葉の薄さは湿潤時にきらめき、とても美しいです。また、コツボゴケは冬枯れする珍しい性格があります。常緑でないのも庭では使い勝手がよくない一因ではあります。

 

次は流通量の多いホソバオキナゴケの性格について把握していきます。

ホソバオキナゴケは山苔という流通名で良く見られます。盆栽の化粧として使われるシーンが多い苔になります。

ホソバオキナゴケは杉や桧などの根元に自生することが多い苔です。葉が一回り大きいアラハシラガゴケなどもあります。樹幹の下という環境から、直射日光はあまり得意ではない性格になります。土壌などの湿潤な基盤ではなく樹皮に自生する性格から、常に湿っているよりは乾燥と湿潤にメリハリがある環境を好みます。また、杉林ならばどこでも見られる訳ではなくある程度空中湿度が安定した環境でないと自生しません。庭で使用する場合は日陰若しくは、常緑樹の足元などの環境が向いています。乾燥には強い性格になります。

また、休眠時でも葉を巻かないので見た目があまり変わらないのも特徴です。水持ちが良すぎる基盤との相性は良くありません。コロニーが次第に脆くなり結果バラバラになってしまいます。苔寺で有名な西芳寺のメインとなる苔はホソバオキナゴケであり、ブロック状のコロニ―がつくる景色はとても趣があります。

この様な性格を理解していると、毎日水をあげる盆栽の足元には最適ではないということが分かります。あくまで景色を造る化粧としての意味合いが大きいのだと思います。

 

次は庭園のメインとして使われるスギゴケ(ウマスギゴケ・オオスギゴケ)の性格について把握していきます。

流通量も多く園芸店などでも普通に見られる大型種の苔になります。高山地で見られるセイタカスギゴケやコセイタカスギゴケなどはとても美しいですが、日射や湿度に対してデリケート過ぎるので庭での利用はほぼ不可能なので割愛します。

スギゴケは日当たりの良い開けた場所に自生することが多い種類です。日当りを好むスナゴケと決定的に違うのが安定した湿度を好むということです。自生地で観察する際は、休眠状態でいることが比較的少ない点からも空中の湿度が安定していると理解できます。苔は原始的な植物になります。維管束や木質部を持ち合せていないので物理的に大きくなるには限界があります。コロニーを密につくりお互いを支えあっていても、ある程度の大きさまで育つと倒れて枯れます。仮根層から新しい芽が枯れた間から発生し新たなコロニーを形成していきます。これがスギゴケの世代交代の方法となるのでスギゴケが倒れるのは物理的に仕方がない現象であることが分かります。

庭で使用する際は湿度管理が最も重要となります。ホソバオキナゴケの様に乾湿のメリハリはあまり好まないので一定の湿度状態をキープする環境を整えることがポイントとなります。日光を好みますがある程度の日陰地でも許容しますので、意識的に日陰をつくるのも一つの方法です。

世代交代で倒れるのを遅らせる方法としては刈込みで丈を詰める方法がありますが、倒れるのもサイクルの一部として理解していればそれも悪くはないのではないかと思います。仮根層から新しい芽が発生しないと1サイクルで枯れて終わってしまいます。山取りのスギゴケは採取時に仮根層を傷付けているケースがあるので栽培苔の使用が必須です。また栽培苔もトレー栽培と畑栽培の2通りがあります。畑栽培は出荷時に苔をすきとります。その際薄くすきとるとこれも仮根層を痛める可能性があります。

 

次は園芸ではあまりメジャーではありませんが、使い勝手の良いヒロハツヤゴケについて把握していきます。

岩の上や日陰で湿度が安定しているアスファルトの上など無機質な基盤に自生していることが多い苔です。

ヒロハツヤゴケは日陰地・安定した湿度の環境で自生しているにも関わらず乾燥に対する耐性が強く、ハイゴケより日射に対しての耐性があるという環境の適応範囲が広い性格が特徴です。また、休眠時に葉を殆ど巻かないので乾湿時で見た目があまり変わらないことも特徴の一つです。湿潤時に光沢のある艶もあり見ごたえもあります。

庭での使用する際はハイゴケと同じイメージで問題ありません。ハイゴケより少しラフな環境でも適応しますのでメジャーな種類ではありませんが優秀な苔です。常緑種ではありますが冬季に赤っぽくなることがありますが異常ではありません。

 

次はシッポゴケ(カモジゴケ)の性格について把握していきます。比較的大型種になりフサフサしたイメージは

見ごたえのある苔です。流通量はそれほど多くはありませんが、手に入れることは難しくない種類になります。

シッポゴケは大型種で落ち葉に埋もれることがないので、針葉樹・落葉樹どちらの森の中でも自生しています。直射日光は好まず、安定した湿度環境下で生育しています。腐葉土など湿度が多い基盤にを好みます。

庭で植栽する場合は日陰地のみになります。湿度も安定していることが条件となります。大型種ではありますがスギゴケの様に倒れることはありません。休眠がそれほど得意な苔ではないので、乾燥が厳しい関東においては環境を整えることがとても重要となります。

 

最後に庭では使えませんが大型種のカサゴケ・カサゴケモドキの性格について把握したいと思います。

先のカモジゴケと似た環境に自生していますが日射と湿度に関してカモジゴケよりシビアです。テラリウムなど密閉空間では管理が可能です。独特なカタチは魅力的ですが庭に植栽するのはやめた方が良い苔です。